サイテーションとは、外部のサイトから、自社名やブランド名やウェブサイト名、自分の個人名などが言及を受けることをいいます。信頼できる有力なニュースサイトに掲載されるようなことも、人々の間でクチコミが広がることもサイテーションです。リンクの重要性が下がっている中、SEOにとって特に重要度が上がってきている概念です。
目次
サイテーションとは
SEOの文脈におけるサイテーションとは、外部サイトからのリンクをともなわない言及を意味し、エンティティの認識と評価に使用される指標です。権威あるサイト上で言及されたエンティティは、注目に値する事物として検索エンジンに認識され、同時に言及された他のエンティティとの関連が学習されます。
自然言語処理とサイテーション
自然言語処理技術はサイテーションの内容を分析してエンティティとエンティティの関係をグラフ化します。そのとき、その言及がどれほどポジティブなものか、またはどれほどネガティブなものかという感情分析も行います。ポジティブな言及なのか、ネガティブな言及なのかは重要な情報だからです。
以下はGoogleの自然言語処理APIのデモ1で簡単な文章を解析させた結果です。例文に選んだのは鈴木謙一2氏によるWeb担当者Forumの連載記事3からで、画像左上のテキストボックスに入力されているのがその原文です。画像下部の「Entities」タブでは、例文に含まれていたエンティティが一覧になっています。
上の画像の「Entities」タブにあるように、GoogleのAIは文章からエンティティを抽出し、それぞれのエンティティの関係を理解します。上記の例では、「グーグル」や「E-E-A-T」や「SEO担当者」などのエンティティとともに「住太陽」が登場し、これらのエンティティが相互に関連することをGoogleは理解します。
このように同じ文書中で共に言及される状況をコ・サイテーション(co-citation)といい、エンティティ同士はより強く関連しているとみなされます。たとえば「住太陽」と「SEO」が同時に言及される頻度が高ければ、「住太陽」と「SEO」には強い関連があるとGoogleは認識します。
自然言語処理APIのデモに戻りましょう。解析結果の「Sentiment」タブを開くと、先ほど入力した文章の感情分析の結果がわかります(下画像)。
感情分析では、ドキュメント全体と、それを構成する各文ごとに感情の種類(極めてネガティブである-1から極めてポジティブである1までの数値で「Score」として示されます)と感情の大きさ(0から無限大の数値で「Magnitude」として示されます)が分析されます。上の例では、文章全体ではかなりポジティブ(0.627)で熱量の高い(2.044)ものと分析されました。
この例のようにサイテーションでは、あるエンティティが他のどんなエンティティと関連し、どのような文脈と感情で取り扱われたかが分析されます。あなたの業界の有力者が著名なウェブサイトに執筆した記事上で、あなたのブランドが好意的な文脈で言及されれば(まさに上述の例がそれです)SEO効果は最大になります。
サイテーションとリンクの違い
サイテーションはよく「リンクをともなわない言及」と説明されます。それ自体は間違いではありませんが、サイテーションはリンクとはまったく異なる働きすることには注意が必要です。リンクはa要素とhref属性からなる決まった形で確実に設定でき、リンク元のコンテンツからリンク先のコンテンツへの支持投票として機能します。
一方でサイテーションは、自然言語処理に基づいたエンティティとエンティティの関連付けとして機能します。例えば、有力なニュースサイト上に「検索エンジンの仕組みに詳しい住太陽氏によれば」のような言及があった場合、エンティティ「住太陽」は「検索エンジンの仕組みに詳しい」存在であるとGoogleは理解します。
サイテーションによるエンティティの理解は、言及が掲載されたウェブサイトや言及した人物の信頼性が高ければ高いほど、また言及の回数が多ければ多いほど、正確度スコアが高くなります。逆に言えば、信頼性の低いウェブサイト上での言及や、信頼性の不明な人物による言及では、効果は限定的になります。
ローカルSEOとサイテーション
サイテーションの構築がSEOの主要な話題のひとつになったのは、2010年前後、スマートフォンの普及を受けて急速に重要性を増したローカルSEOの文脈からでした。ローカルSEOでは、それまでのリンクグラフを利用した正確性や有用性の判定よりも、クチコミ情報を利用した注目度や人気度のほうがより重要性が高いという違いがありました。
近くで評判のいいレストランを探したいような場合、リンクよりもサイテーションを重視して評価するほうが望ましい結果が得られやすいということです。あるウェブページの信頼性や権威性を評価しようとするとき、ウェブ上のリンクグラフを使用するのは合理的です。しかし評価したいものが現実の場所なら、クチコミで知名度や注目度をはかるほうがより合理的です。
注目度とは、ビジネスがどれだけ広く知られているかを指します。 ——中略—— 注目度は、Googleがそのビジネスについて持っているリンクや記事や店舗一覧などウェブ全体の情報にも基づいています。Googleのレビュー数とレビュー評点はローカル検索の順位に影響します。より多くのレビューと肯定的な評価は、あなたのビジネスのローカル検索における順位を向上させます。
How to improve your local ranking on Google – Google Business Profile Help4
上記はGoogleマップとGoogle検索で近くのビジネスを探す場合のランキング要因について解説したGoogle公式ドキュメントからの引用です。知名度や注目度では、リンク情報だけでなくウェブ全体からの様々な情報を使用すること、それにGoogleマップ上でのレビューと評点が順位決定に使用されることが明記されています。
なお、Google検索にエンティティの概念が実装された2012年以前には、正確で統一されたNAP(Name: 名称、Address: 住所、Phone: 電話番号)表記が必要であるとされていましたが、いまはほとんど無関係です。対象となるエンティティがきちんと認識されていればNAPの表記揺れは許容されますし、そもそも個人やウェブサイトに言及する場合には住所や電話番号の情報は不要です。
サイテーションの重要性とSEO効果
サイテーションの重要性は近年になって高まる一方です。以下で説明するように、Googleは評判やE-E-A-Tを重視する姿勢を強く打ち出していますが、評判やE-E-A-Tは外部からの言及で量られる性質が強いためです。現在のSEOでは、エンティティ、E-E-A-T、評判、そしてサイテーションの理解が不可欠であるといってよいでしょう。
注目度や知名度の証明として
権威あるサイトや著名な著者から言及されることは、言及の対象となったエンティティが高い注目度や信頼度を持っていることを証明します。また一般の人々から多数の言及を受けることは、言及対象のエンティティが高い知名度や話題性を持っていることを証明します。サイテーションに期待できる効果は次の通りです。
- 有力なニュースサイトなど信頼できる権威あるサイト上で言及されることは、言及の対象エンティティが注目に値する重要なものであることを証明します。
- あなたのブランドへの言及と同時に言及される他のエンティティの間に関連があることを検索エンジンが学習します。
- SNSやブログやディスカッションフォーラムなどで数多く言及されることは、言及の対象エンティティに知名度や話題性があり、人々の関心を集めていることを証明します。
- ポジティブな文脈で言及されることは、言及の対象エンティティが人々から好意的な印象で認識され、支持されていることを証明します。
- 様々な場所で言及されれば、それを目にした人がその対象エンティティについて検索する機会が増えます。エンティティの名前での検索(指名検索)は、そのエンティティに興味や関心を持つ人々の存在を検索エンジンに伝えます。
ウェブ上にサイテーションが増加し、あなたの会社名や店舗名などのブランド名を目にする人が増えれば、それにともなって指名検索される機会が増えます。指名検索と、そこからの良好なユーザー行動は検索順位を引き上げる効果を持ちます。また、クチコミで広がるポジティブな評判もまたSEOを有利にします。
評判情報の情報源として
Google検索品質評価ガイドライン5では、コンテンツの品質を評価するとき、ウェブサイトやコンテンツ制作者の評判を必ず調査するように求めています。評価対象のコンテンツが信頼できるものかどうかを判断するためには、そのコンテンツを見るだけでは不十分で、第三者からの評判情報による裏付けを必要とするのです。
ウェブサイトやコンテンツ著者について他人が述べていること: ウェブサイトやコンテンツ制作者に関する独立したレビュー、参考文献、ニュース記事、その他の信頼できる情報源を探してください。ウェブサイトやコンテンツ著者が経験豊富である、専門知識がある、権威がある、またはその他の点で信頼できると考えられる独立した信頼できる証拠が見つかるでしょうか? そのウェブサイトやコンテンツ著者が信頼に値しないという独立した信頼できる証拠は見つかるでしょうか?
Google検索品質評価ガイドライン
独立した第三者によるレビューや言及、専門家による推薦、ニュース記事、その他ウェブサイトに関する信頼できる情報源を探しましょう。統計やその他の事務的な情報ではなく、個人や組織によって書かれた情報を探しましょう。ニュース記事、Wikipediaの記事、ブログ記事、雑誌記事、フォーラムでの議論、独立した組織からの評価などは、すべて評判情報の優れた情報源です。
Google検索品質評価ガイドライン
Googleが検索品質評価者に対してこのように指示するのは、Google検索が評判情報を元にしてウェブサイトやコンテンツの信頼性を評価するアルゴリズムをすでに持っており、それが正しく機能しているかどうかを人間の評価者にチェックさせる意図があることが強く推察されます。
ここで重要なことは、評判情報の有用な情報源として挙げられているものはすべて外部からの言及であることです。Googleは折に触れて「検索結果の順位決定要因としてリンクの価値は下がっている」と繰り返し発表しています。リンクに代わる要因として、サイテーションの重要性を高めているものと筆者は考えます。
E-E-A-Tの評価シグナルとして
E-E-A-T(経験、専門性、権威性、信頼)も先ほどの評判と同様に、Google検索品質評価ガイドラインで示されたウェブサイトやコンテンツやコンテンツ作成者の評価指標です。ページ「ランキング結果 – Google 検索の仕組み6」には、そのE-E-A-Tを判定するにあたってリンクとサイテーションが使われていることが明記されています。
どのコンテンツが専門性、権威性、信頼性を示しているか判定するために役立つシグナルを特定します。たとえば、その判定を支援するために使用している要因の 1 つに、そのコンテンツへのリンクまたは言及が他の著名なウェブサイトに含まれているか把握するということがあります。含まれていれば、多くの場合、その情報の信頼性が高いことを示す十分なしるしとなります。
ランキング結果 – Google 検索の仕組み
E-E-A-Tは会社やウェブサイトやコンテンツ作成者などのエンティティが持つ性質を表す概念ですが、それは自己申告して与えられるものではなく、外部からの評価によって判断されるものです。その外部からの評価は、信頼できる著名なウェブサイトからのリンクや言及がシグナルとなります。
クチコミ拡散の反映として
信頼できる著名なウェブサイトからのサイテーションだけがすべてではなく、一般の人々によるブログ記事やSNS投稿などのクチコミ情報もまた、サイテーションとして機能します。ある地域で人気の場所、ある業界で話題の新サービス、またはある関心事を共有する人々の間で人気のコンテンツ作成者など、一般の人々のクチコミが情報源としてふさわしいものもあるからです。
クチコミによる自然な評判はユーザーと Google の両方に対してサイトの評価を高めるのに役立ちます。
Google 公式 SEO スターター ガイド(2023年12月7日版)7
GoogleはSEOスターターガイドの旧版で上記のように述べていました。人々があなたの会社や商品、またはウェブサイトやコンテンツについて話題にしていれば、そのクチコミはGoogleにも届きます。人々はメールやインスタントメッセンジャーなど様々な手段でクチコミを広げますが、その手段の中には、ブログやSNSやフォーラムのようにGoogleが認識できる場所もあるからです。
一般の人々の間で広がるクチコミは、認知度を向上させ、指名検索を増やし、さらなるクチコミを発生させる可能性を持っています。広く国内全域でクチコミの対象となるのはあまりにも困難ですが、もっと狭く、特定の業界や特定の地域だけで話題になるだけでも、サイテーションのシグナルはSEOにとってプラスに働きます。
指名検索の発生源として
あなたのブランドがウェブ上で言及されているのを見た別の人が、言及されていたブランド名で指名検索することもあるでしょう。指名検索は強力なランキング要因です。Googleは指名検索をユーザーによる一種の支持投票とみなし、暗黙のリンク(implied link)として扱う特許8を持っています。
この特許の内容が実際のランキングアルゴリズムに組み込まれているかは不明ですが、もし組み込まれていなかったとしても、指名検索は良好なユーザー行動を生み出し、ランキングを押し上げる効果があります。話題が広がり、知名度が上がり、指名検索する人が増えることは、SEOにとって大きなプラス要因です。
サイテーションを獲得する
サイテーションを獲得するためには、会社や店舗やウェブサイト、または社長やコンテンツ著者などが、業界や地域での存在感を高め、多くの人の耳目に触れやすい状況を作っておくことが重要です。またそれ以前に、読みやすく覚えやすいブランド名(会社名や店名や商品名など)も極めて重要です。
サイテーションを獲得するための取り組みとしては、まずは人々にブランド名や個人名を記憶してもらことから始まり、マスメディアやソーシャルメディアで言及されるような話題性のある広報活動が考えられます。具体的には次のようなものをはじめオフページSEOのあらゆる取り組みが有効です。
- 社長個人の業界や地域での社交活動
- オンラインおよびオフラインでの情報発信
- 覚えやすくユニークな(独自の)ブランド名
- 広告宣伝活動や、パブリシティを含む広報活動
- 話題性のある製品やサービスの開発
- ユーザー参加型のイベントやキャンペーンの実施
- 信頼できる専門家や専門家集団として名声の構築
これらは一朝一夕に実を結ぶものではなく、しかも挑戦したすべての人が成功するものでもないでしょう。だからこそサイテーションには価値があると言えます。また上記のような取り組みは評判の構築やE-E-A-Tの構築とも共通ですから、検索結果で存在感を示したいなら取り組んでいくほかないものだと筆者は考えます。
まとめ
サイテーションは人工的な介入が極めて困難です。業界の有力なウェブサイトや著名人からの言及を得ることが難しいだけでなく、一般の人々のクチコミへの介入もまた非常に困難です。サイテーションの獲得に向けては、時間をかけて言及に値する存在になることが、結果的には早道になるかもしれません。また、適切な宣伝も不可欠です。
言及の獲得や、評判やE-E-A-Tの構築は、社外の誰かに代わってもらうこともできません。中小企業であれば(理想をいえば中堅以上の企業であっても)社長自身が業界や地域や社会への貢献を通じて自らの存在感を高めていくのが確実性の高い方法です。筆者もできる範囲でコツコツやっていきます。社長や個人の皆さん、共に頑張りましょう。
脚注
- Cloud Natural Language | Google Cloud ↩︎
- 鈴木謙一 – Google 検索 ↩︎
- 【決定版】E-E-A-T徹底解説。SEO担当者が知っておくべきポイントを簡潔に解説【SEO情報まとめ】 | 海外&国内SEO情報ウォッチ | Web担当者Forum ↩︎
- How to improve your local ranking on Google – Google Business Profile Help ↩︎
- Google検索品質評価ガイドライン ↩︎
- ランキング結果 – Google 検索の仕組み ↩︎
- Google 公式 SEO スターター ガイド(2023年12月7日版) ↩︎
- US8682892B1 – Ranking search results – Google Patents ↩︎